2025年1月31日(金)深夜1:25~2:25
30年目の難問~震災を知らない学生たちへ~
内容
6434人の命を奪った阪神・淡路大震災。それまで多くの人が「関西で地震は起こらない」と信じていたと言う。住宅街を焼き尽くし、高速道路をなぎ倒した1995年の激震は、日本中に衝撃をもたらした。
それから30年、街は復興し、震災後に突き付けられたあの光景を知らない人が多く存在する。今、阪神・淡路大震災を経験した人の話や教訓を伝え続ける意味とは何だろう。
関西大学の齊藤ゼミで映像制作を学ぶ学生たち。与えられた卒業課題は「阪神・淡路大震災」だった。震災をテーマに取材を展開し、ドキュメンタリーを作るよう求められたものの、生まれる前に起きた震災を“自分事”に捉えることは容易ではない。
阪神・淡路大震災を継承するボランティア活動に大学1年のときから参加していた石田瞳さん(大学4年)は、震災に関心がなかった同級生とともに、自身の活動を取材。
2024年1月1日に発生した能登半島地震を石川県の実家で経験した新谷和さん(大学4年)は、被災した能登半島を取材することに。
阪神・淡路大震災後に生まれた学生たちが震災を経験した人々と出会い、当時のことを知っていく過程で何を考えたのか?震災を伝え続ける意味について改めて問う。
スタッフ
- ディレクター
- :入道楓
- 撮影
- :登島努
- 編集
- :芳本武
- プロデューサー
- :宮田輝美
ナレーション
小須田康人
コメント
声を吹き込むにあたって意識されたことはございますか。
いただいた原稿を読んで、ディレクターさんは説明のナレーションは最小限にして番組を作りたいのだろうなとわかりました。ナレーションの言葉も相当吟味されて準備されてるんだろうと。どれほどイメージ通りの肉付けができるのかが課題と考えて取り組みました。
番組をご覧になっていかがでしたか。
関西大学のゼミ生の19人のうち18人が「震災のことを知らない」と言っているのが本当に驚きでした。でも最近の若い人はテレビを見ないと聞きますし、SNSの情報は自分が見たいものしか出てこないことが多いですから、そういうこともあるんだなと。番組の取材を1年半されたと伺いましたが、若い彼らが大学の授業で単位を取るために「やらなきゃいけない」と始めたところから変わってきているのが、1時間の番組の中でも感じられました。一生懸命真剣に取り組んでる様子はあったし、みんな偉い。すごく優秀な人たちですよね。「何も頑張ってない、何も知らない」と言ってるけど「若い人も頑張ってるな」と思いました。
ドキュメンタリーに登場する学生と遺族たちの姿を見て思われたことは?
小さいお子さんを亡くされて、なんとか助けようとしてるところに「それはやめてくれ」と言われたという壮絶な体験をされた遺族の方が、淡々と話されてるのを聞いて、言いようがないほど心が震えました。僕は画面を通してでしか聞いていないわけですけれども、その体験を生の声で聞くのはさらに大きなことだろうと思います。本当にショッキングでした。
震災が起きて10年ぐらい経ってから生まれた世代が「阪神・淡路大震災をドキュメンタリーで撮る」という “難問”に挑みますが、震災を知ってらっしゃる世代の小須田さんはどう思われましたか?
震災を知らない学生たちの2年間を見せてもらったわけですが、でも僕自身だって震災をよく知らないほうなんですよ。たしかに阪神・淡路大震災は自分が生きてる時に起きましたが、自分自身としては地震が起きた直後にあっという間にお米やパンやトイレットペーパーがなくなって不自由したくらいの影響しかなくて、それ以外は全てテレビを通しての情報でしかなかったんです。テレビで1月には 阪神・淡路大震災を毎年扱いますし「地震が起こったことも知らない」という人は、それほどいないのではないかと思います。ただ、どの程度知っているかのグラデーションはとても大きいでしょうし、災害が起きたときに生きていたから知っている、ということもないと思います。
震災を知らない学生たちは、震災にずっと向き合わざるを得ない遺族から「そもそも震災を伝える意味ってありますか?」と突きつけられます。小須田さんはこの“難問”についてどう思われますか。
その答えはいっぱいあるだろうし全部正解だと思います。今回の映像を見て、伝え続けていくことは自分自身が生き残るために必要なんだ、というのが今の思いです。みんながみんな生き残るために何か必要なことをして将来に備えようとすれば、悲しむ人がずっと減る。それは社会にとってとても大きなことだと思うんです。
震災はある意味“避けようがない”ものだと思いますが、それでも伝える意味についてどう思われますか?
伝える意味はあると思います。知識がなければ避けようがない、あるいは被害を減らしようがないわけですから。災害が過去になっていくことによって、いざ災害が起きたとき、逃げて命を守ることが1番大事なはずなのに、普段していることのほうを優先してしまう。東日本大震災が起きて大津波警報が出たとき、お店を経営している人が避難せずに散乱した商品の片づけをし続けたとか、自動車で逃げようとして渋滞に巻き込まれたとか、一度高台に避難したのに何かものを取りに家に戻ったとか、地震のあとの検証番組でそういう証言がたくさんありましたよね。東日本大震災の被害があまりに大きかったので、海の近くで地震に遭ったらすぐに高いところに逃げる、という意識は今は多くの人が持っているだろうと思います。でも災害は少しずつ過去のものになっていくし、災害のあとに生まれた「知らない世代」の人たちも少しずつ増えていきます。“避けようがない”震災だからこそ伝えていかなければならないのではないでしょうか。
最後に視聴者の皆さんへのメッセージをお願いします。
大きな災害が起きた時に次の世代に伝え続けなければいけない理由は何かを問うた番組です。本当に自分も考えさせられました。もちろんこういう番組に興味を持ってご覧になる方は、すでにお考えになっているとは思うのですけども、時間を作って改めて考えていただけたらうれしいです。